育児休業で知っておくことは?
気の早い話なんですが、出産について聞きたいんです。出産から育児までの期間に休暇が取れると思うんですが、会社でうまく対応してもらえるか不安で、それに今では夫でも育休が取れる制度があると聞いたんですが制度自体複雑そうですし……。そうだ、費用についても考えておかないと……。
育児休暇は制度が複雑で不安になりますよね。焦る気持ちもわかります。まずは社内手続きを事前に把握して、人事の担当者とコミュニケーションを早めに取り始めることが一番重要ですよ。周りにサポートしてくれる人がたくさんいることを忘れないようにしてください。
たしかに育児休暇の制度は2022年10月にも法改正がありましたし、女性保護規定を加えて考えるととても難しい制度です。ここでは基本の部分をまず見ていきましょう。実際にご自身の会社の就業規則と照らし合わせてもらうと理解が深まりますよ。
育児休業制度の基礎知識
①出産と育児の休暇図ー妻ー
②出産と育児の休暇図ー夫ー……夫の出産はないのですべての期間が育児休業期間となります。
まずは図①出産と育児の休暇図‐妻‐を見てください。
休暇については『産前産後休業』オレンジの部分と『育児休業』青の部分があります。
こちらは妊産婦自身である妻に係る事項です。
②の部分は、出産と育児の休暇図‐夫‐となります。夫が出産をするわけではないので、すべての期間を育児期間としています。
以下では、産前産後期間と育児期間をわけてお話しします。
1.産前産後休業
プランニングチェックー産前産後休業―
□対象者:会社員、有期雇用
□イベント:出産育児
□休暇期間:産前42日、産後56日
□給与支給:事業主は給与を不支給とすることができる
□確認事項:就業規則、育児介護規定、労使協定
□給付金:出産手当金(健康保険)
□支給額:平均標準報酬月額÷30日×2/3(1日当たり)
産前と産後の違いを以下にまとめました。
1.従業員からの請求 | 2.取得日数 (週/日数) | 3.出産日のカウント | 4.給与支給 | |
産前 | 必要 | 6週間(多胎妊娠14週)/42週 | 出産日を含む | 不支給でも可 |
産後 | 必要なし | 8週間/56日 | 出産日を含まない |
1.従業員からの請求
産前休暇は取得を希望する場合に取得することになります。そのため従業員からの請求が必要となります。産後休暇は必ず取得することになります。また産前産後休暇は有期雇用かどうかに関係なく取得することができます。
2.取得日数
取得日数は、産前6週間/42日、産後8週間/56日で合計98日です。多胎妊娠は産前14週/98日となります。
3.出産日のカウント
出産日は産前に含まれ、出産日が前後する場合以下のような処理がなされます。
①出産が出産予定日より早まる場合、産前日数が減少し、産後日数は増減なし。
②出産が出産予定日を超える場合、産前日数が増加し、産後日数は増減なし。
4.給与支給
使用者に産前産後休業の給与支払い義務はありません。
休業し賃金が支払われない場合は、健康保険の出産手当金を受給することができます。
■出産手当金
出産手当金
保険の種類:健康保険
要件:産前産後休業期間に休業をした日数で、給与支給がなかった日数を上限に支給されます。
1日当たりの支給額:平均標準報酬月額※÷30日×2/3
※支給開始日以前の継続した12カ月間の各月の標準報酬月額を平均した額
手続き:支給申請者本人が「出産手当金支給申請書」の必要事項を記載し、使用者を通して健康保険に申請します。
2.出生時育児休業(産後パパ育休)
プランニングチェックー出生時育児休業―
□対象者:夫
□イベント:育児
□休暇期間:出産後8週間のうち4週間(28日)
□給与支給:事業主は給与を不支給とすることができる
□確認事項:就業規則、育児介護規定、労使協定
□給付金:出生時育児休業給付金(雇用保険)
□支給額:休養開始時賃金日額×休業期間の日数(28日が上限)×67%
出生時育児休業(産後パパ育休)は、2022年10月から始まった新しい制度になります。
通常規定 | 例外 | |
取得日数 | 通算4週間(28日) | 2回まで分割取得が可能 |
申出期間 | 2週間前まで | 会社の労使協定により1ヵ月 |
対象者 | 出生後8週間以内の子供を養育する社員 | 【有期雇用労働者】は、8週間経過する日の翌日から6ヵ月を経過する日までに労働契約が満了することが明らかでない者 |
【正社員】は、労使協定により以下のものを対象外とすることができる。 ①入社1年未満のもの ②申出日から8週間以内に雇用関係が終了することが明らかなもの ③1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 |
■出生時育児休業給付金
出生時育児休業給付金
保険の種類:雇用保険
要件:①基本的な要件としては、下記ア、イとなります。
ア.被保険者が初日と末日を明らかにして行った申出に基づき、事業主が取得を認めた休業
イ.「出生日または出産予定日のうち早い日」から「出生日または出産予定日のうち遅い日から8週間を経過する日の翌日まで」の期間内に4週間(28日)までの範囲で取得されたもの
②休業開始前2年間に賃金支払い基礎日数が11日以上ある(ない場合は就業した時間数が80時間以上の)完全月が12カ月以上ある。
③休業期間中の就業日数が、最大10日(10日を超える場合は就業した時間数が80時間)以下であること
1日当たりの支給額:休業開始時賃金日額×休業期間の日数(28日が上限)×67%
支給調整:
支払われた賃金額 | 支給額 |
休業前賃金月額の13%以下 | 休養開始時賃金日額×休業期間の日数×67% |
休業前賃金月額の13%超~80%未満 | 休養開始時賃金日額×休業期間の日数×80%ー賃金額 |
休業前賃金月額の80%以上 | 支給されない |
手続き:事業主が申請手続きを行います。
提出期限:この出生日(出産予定日前に子が出生した場合は、当該出産予定日)から8週間を経過する日の翌日から提出することができ、当該日から2か月を経過する日の属する月の末日が提出期限となる。
3.育児休業
プランニングチェックー育児休業―
□対象者:妻・夫(正社員・有期雇用は可、日々雇用を除く)
□イベント:育児
□休暇期間:子が一歳(誕生日の前日)になるまで
□給与支給:事業主は給与を不支給とすることができる
□確認事項:就業規則、育児介護規定、労使協定、賃金規定、賞与規定等
□給付金:出生時育児休業給付金(雇用保険)
□支給額:休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)
□期間延長:1年2か月(パパママ育休プラス)、1年6ヵ月、2年
□延長事由:両親がともに育児休暇を取得すること(パパママ育休プラス)、保育所等に入所希望しているが入所できない等の状況がある場合
①産後8週間~子が1歳になるまで | 【正社員】は1歳未満の子供を養育する社員、労使協定により以下のものを対象外とすることができる。 ①入社1年未満のもの ②申出日から1年以内に雇用関係が終了することが明らかなもの ③1週間の所定労働日数が2日以下の労働者 |
【有期雇用労働者】は、申出日時点で、子が1歳6ヵ月までの間に契約が満了し、更新されないことが明らかでないもの | |
②~1歳6ヵ月までの延長期間を申請するための要件は①を取得した従業員で以下のアとイの事情があることが必要です。 | ア.保育所等に入所希望しているが入所できない イ.本人の配偶者で、かつ育休対象の子の親で1歳以降の期間養育を行う予定だったものが死亡、負傷、疾病等により子の養育が困難となった場合 |
③~2歳までの延長期間を申請するための要件は②を取得した従業員で以下のア、イ、事情があることが必要です。 | ア.保育所等に入所希望しているが入所できない イ.本人の配偶者で、かつ育休対象の子の親で1歳以降の期間養育を行う予定だったものが死亡、負傷、疾病等により子の養育が困難となった場合 |
■育児休業給付金
育児休業給付金
保険の種類:雇用保険
要件:①基本的な要件としては、下記ア、イとなります。
ア.被保険者が初日と末日を明らかにして行った申出に基づき、事業主が取得を認めた休業
イ.休業開始日から、当該休業に係る子が1歳(いわゆるパパ・ママ育休プラス制度を利用して育児休業を取得する場合は1歳2ヵ月。さらに保育所における保育の実施が行われない等の場合は1歳6ヵ月または2歳)に達する日前までにあるもの。
②休業開始前2年間に賃金支払い基礎日数が11日以上ある(ない場合は就業した時間数が80時間以上の)完全月が12カ月以上ある。
③1支給単位期間※中の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること。
※支給単位期間……育児休業を開始した日から起算した1ヵ月ごとの期間
1日当たりの支給額:休業開始時賃金日額×支給日数×67%(育児休業開始から181日目以降は50%)
支給調整:
支払われた賃金額 | 支給額 |
休業開始時賃金月額の13%以下 | 休養開始時賃金日額×休業期間の日数×67% |
休業開始時賃金月額の13%超~80%未満 | 休養開始時賃金日額×休業期間の日数×80%ー賃金額 |
休業開始時賃金月額の80%以上 | 支給されない |
手続き:事業主が申請手続きを行います。
提出期限:この出生日(出産予定日前に子が出生した場合は、当該出産予定日)から8週間を経過する日の翌日から提出することができ、当該日から2か月を経過する日の属する月の末日が提出期限となる。
4.パパママ育休プラス
両親がともに育児休暇を取得することで、原則子供が1歳になるまでの育児休業期間が、1歳2ヵ月までに延長される制度が『パパママ育休プラス』という制度です。
両親が下記の条件に該当する場合に子が1歳2ヵ月になるまで延長されます。
①育児休業を取得しようとする労働者の配偶者が、子の1歳に達する日(1歳の誕生日の前日)以前において育児休業(産後パパ育休を含む)をしていること。
②本人の育児休業開始予定日が、子の一切の誕生日以前であること
③本人の育児休業開始予定日が、配偶者がしている育児休業(産後パパ育休を含む)の初日以降であること
育児休業を取得できる期間(産後パパ育休の期間を含む。出産した女性の場合は、出生日以降の産前・産後休業期間を含む)は1年間となります。
よくわからないですね、どういうことなんでしょうか?
では、どういう育児休業がとれるのか具体的に見てみましょう。
まずは法律上一つ年を取るのは、『1歳の誕生日の前日』であることを覚えておきましょう。
そして育児休業とは、子が1歳(誕生日の前日)までとされています。そのため6月4日でママの育児休業は終了。1歳誕生日『以前』というのは、6/5(誕生日)を含むので6/5にパパが育休をスタートさせます。
育児休業を取得できる期間(産後パパ育休の期間を含む。出産した女性の場合は、出生日以降の産前・産後休業期間を含む)は1年間です。ちょうど下図のブルーのような期間になります。つまりパパの取得期間1年をずらし、育児休業の取得の枠組みがプラス2か月されるという制度になりますね。
それでは、取得できない場合をみてみましょう。3つの要件に該当しない場合となりますが、下記は一例になります。6月6日は『1歳の誕生日以前』に含まれないためにパパママ育休プラスの対象外です。
条件をしっかりと確認しておかないと育休と認めてもらえない可能性があるんですね……。プランが立てにくい制度ですね。
そうですね。1年6ヵ月、2年などの延長も待機児童の問題に合わせて制度化されていますが、延長制度を考慮するとさらに複雑になりますね。勤め先の担当者の理解も重要なので、やはり早めにコミュニケーションを取り始めることが大事です。CHECKの欄に確認すべき規定を記載しています。担当者とのコミュニケーションツールとなりますので、確認は必須ですね。
確認すべき規定類は『就業規則』『育児・介護休業規定』『労使協定』です。
確認すべき規定
①就業規則……常時10人以上の労働者を使用する使用者は作成義務と行政官庁への届出義務があります(労基法89条)。そのため10人に満たない事業所ではない場合があります。
②育児・介護休業規定……制度の内容、申請手続き方法、書類様式等が具体的に記載されています。
③労使協定(育児介護休業等に関する労使協定)……労使協定を締結することにより、一定の従業員の適用を除外することができるとされているので、確認が必要です。
なるほど、会社の規定をまず確認してみます。
妊娠の判明から、育児、子の看護休暇まで含めると小学校入学までの長期間のプランニングや危急な出来事に対応できる制度にどんなものがあるか一度把握をしておくといいですね。