いままで年収を130万を超えると手取りが減るというので働く時間を調整してきたんですが、物価もあがってきたし、もっと働くほうがいいかと思っています。130万の壁っていったいどういうものなんですか?
130万の壁というのは、130万を超えると社会保険の加入義務が発生するラインをいいます。お給料から社会保険料が差し引かれ、手取りが減少することになります。そのラインを壁といっているわけですね。そして多くの方は年収が130万円を超えないように調整していたわけです。昨今のように物価があがれば実質的に賃金が減少したに等しいわけですから、もう少し多く働きたいな、となるわけです。
【130万の壁】~もっと詳しく~
第三号被保険者とは?
年収130万を超え、社会保険料の負担をすることとなる人はどのような人でしょうか?
よく専業主婦のみなさんといわれますが、正確には国民年金制度の第3号被保険者の方が該当します。では、第3号被保険者ってなんなのでしょうか?
第〇号被保険者とは、国民年金制度に加入が義務付けられている20歳以上60歳未満(第2号被保険者は年齢要件はありません)に該当する人の種別になります。
第1号被保険者は、厚生年金に加入していない、自営業者や個人事業主、学生などが該当します。
第2号被保険者は、厚生年金加入者で、会社員が該当します。年齢要件はありません。
第3号被保険者は、第2号被保険者の被扶養配偶者で、会社員の妻(妻が会社員の場合その夫)が該当します。
被扶養配偶者とは、健康保険の被扶養者に該当する配偶者(妻、夫)のことです。
つまり、この被扶養配偶者に該当する要件に『年間収入が130万円未満であること』とあるため、年間収入が130万以上であれば、被扶養配偶者に該当しないため健康保険に加入しなければならず、かつ同時に厚生年金加入することとなります。
K山さんは、夫が会社員なので第3号被保険者に該当します。それでは被保険者の保険料負担をみてみましょう。
第1号被保険者は、2024年4月~2025年3月までは月額16,520円です。
第2号被保険者は、一定の月額給与と賞与に基づき保険料率を乗じて算出されます。
第3号被保険者は、保険料が免除されています。
ということは、年収130万以上になると厚生年金と健康保険に個人で加入することになって、保険料がお給与から引き落とされてしまうんですね。今は免除されている状態なのかあ……。
そういうことですね。健康保険と厚生年金は保険料徴収だけではなく給付もあるわけですから、必ずしもデメリットだけではないといえます。メリットの前に保険料についてもう少し詳しくみてみましょうか。
健康保険と厚生年金の保険料
第2号被保険者の保険料は、月額給与と賞与に保険料率を乗じて求めることになりますが、基礎になる給与を『標準報酬月額』、賞与を『標準賞与額』といいます。
標準報酬月額は厚生年金(88,000円~650,000円/32等級)、健康保険(58,000円~1,390,000円/50等級)で、自分がどの等級に該当するのか各都道府県別の『標準報酬月額表』で確認することができます。
健康保険と厚生年金は、従業員と事業主が折半負担することになります。標準報酬月額表では全額と折半額も確認できますので、個人負担、事業主負担の額も計算せずにわかります。
東京都の保険料率について表で確認しましょう。
介護保険第2号被保険者というのは、40歳~65歳までの人をいいます。
健康保険料率 (1/2) | 厚生年金保険料率 (1/2) | 合計率(1/2) | |
介護保険保険第2号被保険者に該当しない。 | 10%(5%) | 18.3%(9.15%) | 28.3%(14.15%) |
介護保険保険第2号被保険者に該当する(40歳~65歳)。 | 11.82%(5.91%) | 30.12%(15.06%) |
健康保険と厚生年金合わせて14%~15%の保険料が給与額から控除されということですね。あとは社会保険として雇用保険料(従業員負担)の0.6%が加わり、税金としてさらに所得税と住民税が控除されることになります。
参考:〈各都道府県の標準報酬月額表〉/全国健康保険協会 協会けんぽ
健康保険と厚生年金の給付について
社会保険に加入する場合、保険料の納付をすれば、当然給付もあるためメリットがあるといえます。健康保険・厚生年金保険料は、国民年金よりも保険料負担が大きく、事業主も半分負担していることもあり、より給付が充実しているといえます。
ケガや病気の際の傷病手当金は最長で1年6ヵ月あり、年金額の上乗せもあることから夫婦ともに年金額が増えれば老後の所得補償が期待できます。
健康保険については国民年金保険の給付内容にはない『傷病手当金』と『出産手当金』の給付を受けることができます。
『傷病手当金』は、病気やけがのために働けず賃金・給料がうけられない際の所得補償として給付されるもので、標準報酬月額を30を除した額の3分の2相当額が最長で1年6ヵ月の期間支給されます。
『出産手当金』は、出産の日以前42日、出産の日後56日間で出産のため仕事を休んだ期間、休業1日につき標準報酬月額を30を除した額の3分の2相当がとされます。
厚生年金に加入し保険料を納付すれば、老齢基礎年金の上乗せとして老齢厚生年金(報酬比例部分)が支給されます。そして障害厚生年金については、障害基礎年金1・2級の上乗せとして障害厚生年金1・2級が支給され、さらに国民年金の障害基礎年金にはない、『障害厚生年金3級』及び『障害手当金』の支給を受けることができます。
給付 | 給付内容 | ||
健康保険 | 傷病手当金 | 病気やけがのために働けず賃金・給料がうけられない際の所得補償として支給される | |
出産手当金 | 出産の日以前42日、出産の日後56日間で出産のため仕事を休んだ期間支給される | ||
厚生年金 | 老齢厚生年金 | 障害基礎年金に上乗せして支給される | |
障害厚生年金 | 障害基礎年金1・2級に上乗せして支給される | ||
障害基礎年金3級が支給される | |||
障害手当金が支給される | |||
遺族厚生年金 | 遺族基礎年金に上乗せして支給される |
いろいろな壁
じつのところ壁というのは『130万円』に限られません。
税金とあわせて考える必要があります。社会保険と税金の区別を理解しないとわけがわからなくなりますので、概要だけ抑えておくのが良いでしょう。
まずは『106万円の壁』をご紹介します。これは社会保険型の壁です。社会保険の適用が年収106万円でもありうる、ということを意味しています。ではどのような場合に年収106万円で社会保険が適用されるのでしょうか?
それは働いている職場の要件によります。2022年10月からパートタイム労働者の社会保険適用が拡大されています。下記の要件に該当する事業所で働き、要件に該当するパートタイマーは社会保険の適用対象者となります。
□従業員数が100人以上の事業場
□週の所定労働時間が20時間以上
□月額賃金が88,000円以上
□2か月を超える雇用の見込みがある
□学生でないこと
この要件の月額賃金が年収だと1,056,000円となります。
2024年10月からは、従業員数が51人以上に引き下げられ、さらに適用拡大されることから社会保険料を負担するパートタイマーはさらに増えることになると考えられます。
次は『103万円の壁』です。これは税金型の壁で、所得税に関わる問題です。
所得税はその所得によって税金が課せられます。所得税の計算の基礎となる所得額に税率を乗じて納付するべき所得税額を計算しています。
ここで、所得ってなに?と思われるかもしれませんが、所得とは『収入』から必要経費を引いたものになります。仕事の経費は会社が負担していますが、日常の基本的な必要経費として収入から『基礎控除』という名目で48万円の控除を受けることができます。
この収入から48万円を引いた額を所得と考えるとよいでしょう。
そして給与収入を得ている場合、給与所得に対して『給与所得控除』があります。これが55万円になります。
そこで103万円の収入の場合、103万円から基礎控除48万円を差し引き、残りの55万円が給与所得、そこから55万円の給与所得控除を差し引くと『0』となり、所得税を納める必要がなくなるのです。
所得税ですね。むずかしいですが、控除額をあわせて103万円なので、それを超えると所得税を納めなきゃいけなくなるってことですね。そんな壁もあるんですね。
それでは 『150万の壁』と『201万円の壁』のお話になります。この壁も税金型の壁です。そしてここから夫が登場します。つまりお仕事をする妻の収入が夫の納める所得税額に影響を与えることになります。
先ほど『基礎控除』と『給与所得控除』のお話をしました。ここで出てくるのが『配偶者特別控除』です。
『配偶者特別控除』は妻の収入が103万円~150万円の間は『配偶者特別控除』として38万円を控除することができます。
夫の収入が300万円である場合、300万-48万円(基礎控除)-55万円(給与所得控除)-38万円(配偶者特別控除となり、所得税額計算の基礎となる所得金額は158万円となります。
妻が150万円を超えると38万円から段階的に控除額が引き下げられることになります。
そして年収201万円を超えると配偶者特別控除は0になります。
配偶者特別控除がなくなるのが『201万円の壁』ということになります。
簡単にまとめると以下のような、表になります。また、雇用保険の適応については、1週間の所定労働時間が20時間以上で、同一の雇用主に31日以上雇用されることが見込まれる場合は加入しなければなりません。その時は1000分の6が保険料負担になります。そのため労働時間の調整をする場合もあります。
収入 | 種類 | 主体 | 事由 |
103万円 | 税金 | 本人(妻) | 所得税負担の発生 |
106万円 | 社会保険 | 本人(妻) | 厚生年金&健康保険に加入 |
130万円 | 社会保険 | 本人(妻) | 厚生年金&健康保険に加入 |
150万円~ | 税金 | 配偶者(夫) | 配偶者特別控除の段階的引下げ開始 |
201万円 | 税金 | 配偶者(夫) | 配偶者特別控除の適応なし |